テクノよもやま話
 No4

格差と共存共栄 (その1) 

 大和総研の200767日付けレポートに東証一部上場主要300社の2006年度業績がまとめられている。前年増収は262社(内202社は増益)、減収は38(12社は増益)であり、電機、精密、自動車などの製造業において好決算が続いた。結果としてこのような会社で働く社員のボーナスも好景気であるようだ。しかし、中小企業、特に地方都市で活動している企業では、少し業績は回復しているもののボーナスも出せない会社が多いと聞く。

グローバルに拡大している市場競争の結果、業種と事業内容、事業規模、立地条件などを主要因として格差が拡大しているように思われる。

私がかつて所属していた松下電器はここ数年の経営改革によって今は勝ち組企業と認められている。一方、私が現在付合っている中小企業の中の幾つかは、受注量は多くなったが利益の出ない製造下請け事業体質が続いており、経営改革に着手し、独自商品の開発など様々な手も打っているが中々経営成果につながらず経営者も社員も非常に苦しんでいる。特に地方の中小企業では地域の雇用を守る企業使命も担っている面が有り、割り切った経営改革が進まないのも実情である。

 企業間の格差はいつの世もあるものの、もう少し利益配分法を変えられないのだろうか? 格差が縮小するような共存共栄の方法はないのだろうか?

現在付合っている企業の社長と社員の方々の顔を思い浮かべながら雑感を記載するものである。

 1.共存共栄から弱肉強食社会へ?

私が33年余り職場とした松下電器では、「共存共栄」の文字は各職場に立派な額に納められ掲示されており、「水道哲学」と並んで最も代表的な経営理念であった。創業者の松下幸之助氏が昭和初期に始めたラジオ事業に関して、メーカーとしての松下電器とその販売を委託している販売代理店が共に適正利潤を確保しながら、共に発展することを目指してこの理念を訴えたそうだ。以降、問屋、販売店、納入業者などの直接取引先との共有だけでなく、さらに同業メーカー、業界全体の健全な発展を目指したより広い理念として発展させてきた。私の在職中は地域、業界ごとに 松**会、**共栄会などの親睦会が組織され、親睦だけでなく共存共栄するための勉強会なども活発に開かれていた。

かつての日本の自動車産業、エレクトロニクス産業の業界では多くの大企業は製造から販売・サービスまでの事業活動の中で、独自の企業系列をつくり、共存共栄を目指していた。最近ではこの系列もほころび始め、今まで取引のなかった企業からも安価で優秀な部品を入手できるならば積極的に購入する大企業が増加している。市場経済・自由競争のイメージからはこの流れは、至極当然であり、良いものを安くお客様に提供するという企業の使命からも納得されるはずのものである。

しかしながら、この市場競争に負け、経営に苦しんでいる中小企業(勿論大企業でも)が多いことが現状である。勿論、中小企業においても勝者となる企業も存在するが、グローバルな市場競争の中では勝ち続けるためには厳しいものがある。一方、過疎化が進む地方都市では発注元である大企業が少なく、受注と優秀な労働力を安定的に確保することが困難であり、地域間格差が拡大する傾向にある。さらには、今までの雇用を継続させる使命が課せられていることが多い。

さらにはコスト削減のため企業の規模を問わず、正社員よりも非正社員の雇用を増やし、結果として個人格差を生み、至るところにワーキング・プワー現象が生じさせ、弱肉強食社会を連想させている。

結果として以下のような問題が顕著になっている。

@「大企業が儲け、中小企業の多くは忙しいけれども儲からない」

A「大都市圏の企業は儲かるが地方の企業は儲からない」

B ブランド力の無い中小企業では新入社員を確保するために大企業よりも高い初任給が必要。

C「非正社員化によるワーキング・プワー層を増加させている企業群」

格差の実態と格差解消の方法があるのかどうかについて、私なりの考えを何回かに分けて記載していく予定である。

2.大企業での合理化の促進:コスト削減

カルロス・ゴーン氏が1999年に日産自動車のCOOに就任してからの経営改革の一つが、資材購入先の大改革であり、2000年度には1400億円以上の購買コストを削減したことは驚きをもって世の中に受け止められた。1990年代後半の“グローバルな大競争”に生き残るためにという企業命題の中で、その成功事例は大きい影響を与えた。以前からも自動車産業やエレクトロニクス産業分野の大企業ではサプライチェーン・マネジメント(SCM)の遂行により、系列企業を含めた取引業者の整理統合や納入体制、納入価格削減要求が頻繁に行われて来た。このSCMを推進する新しい電子交換システム(EDI)などの構築でリードタイムも短縮され、顔を見ないで取引できる環境になり、従来の俗人性が入る余地のあった「共存共栄」の理念が失われてきているのが大企業側の実態だと思われる。

<大企業側の論理と本音>

@ 自分たち(大企業側)が負ければ関連する納入業者も共倒れになるから少なくとも発注側の大企業は勝ち残り、儲けなければならない。

A 納入業者(多くは中小企業)にも合理化を推進してもらい、強い企業体質を作るべく努力して欲しい。

B 多くの大企業において導入されている成果主義という個人評価制度の下では、購買担当者は個人の目標達成のために、最終的にはなりふりかまわず納入業者に強い要求を押し付ける。

  (短期的視野での成果を求め、育てる意識は無くなっている)

C コスト削減のためには親睦会的な***会は無くし、成果の上げられる**勉強会や品質検討会など推進し、家族的な付き合いを無くしてきた。

 

3.中小企業はこれらにどう対応してきたのか?

テクノ創育がこの5年間に係ってきた企業は大半が中小企業であり、その中にも大企業との企業間格差と共に中小企業間でも格差が顕著に出てきた気がする。その中小企業間の格差の代表例は

@ 独自商品で大企業と伍して戦える中小企業

A 取引先の要望に対して納期・コスト面で無理やり対応し、忙しいけれども儲からない中小企業

であり、Aの会社も@の企業に変身できるように非常に努力している。

<独自商品で大企業と伍して戦える中小企業>

関東地方にある社員80人程度の製造会社は独自技術を有して、世界の大手企業と伍して戦える能力を有し、収益性も良い。この会社はオーナー社長が常に高い好奇心を持ち、技術も世界一流でないと生き残れない、という強固な信念を持ち、かつそれを実践してきている。一般に大企業であっても重点戦略事業で無い場合には、係っている社員数は中小企業と同程度である。中小企業が負けている開発力は地方の大学などの公的研究機関、他の技術力のある中小企業と組むことによって補強し、逆に営業力では顧客との距離を短くして一体感を醸成し、間接コストの少ない分で価格力を強化する事によって十分に競争力を保っている。

同様な企業は金型メーカーや精密加工メーカーなどのメカ系企業に多いようである。経済産業省中小企業庁が金型、鋳造・鍛造、めっき等の基盤産業を中心に調査し、まとめた「元気なモノ作り中小企業300社」(中小企業庁のHPからダウンロードも可能)にそのような事例が多く掲載されている。これらの企業のキーワードは ニッチ、オリジナル、コラボレーション(大学や他企業との)だと思う。

<製造下請け企業はしんどい?>

 独自技術が弱く、単純な製造下請けの場合には当然のことながら製造コスト競争に巻き込まれ、特に電気電子機器のように海外生産シフトが進んだ業界で製造下請け事業を継続するのは厳しい。大企業の業績が良いことから受注量は多く、繁忙感はいつもあるが利益が出ない所謂ワーキング・プワーの状況が続いているようである。自分の会社から好業績の企業に応援に行き、そこの社員と会話して景気の良いその会社のボーナスなどの話題が出るとやるせない気持ちになるようである。

 

4.製造下請け企業の変革

@ EMSのような製造請負事業ではFlextronics Corp.Solectron Corp.,など超大手企業が存在する。中小企業でEMS型事業を行うにはやはり特化した設計・生産・製造技術をベースにした製品の請負事業に改革していく必要が有り、電子技術の中では既にナノテクやバイオなどの先端技術分野に保有技術も持てれば存在感が出てくるであろう。単純な電子回路の実装組立などの事業分野では、製造品質確保と保証、価格競争に勝てる生産技術力の強化(効率的な多品種少量生産)ではるかに他社を上回る能力が要求されよう。そのためには製造社員一人一人の品質と生産技術に関する能力向上が必要であり、各人が製造のプロ意識を持って仕事をすることが要求されよう。

  しかし現実は、中小企業では製造社員の教育まで手が回らないのが実情であり、適切に指導できる上司も少なく、外部の支援を受けながら着実に製造力強化が必要である。 

 

 A 独自商品を開発する

  現在、中小企業庁では中小企業の経営体質改善や商品開発に様々な支援策を立て、実施している。

  また、地方の大学や公的研究機関もそれぞれが独立法人化したことも有り積極的に地域の企業活性化支援に取組んでいる。このような支援策を積極的に活用し、自社ブランド品を生み出せるように取組むべきである。ただ、研究開発から商品化、さらには事業に育てるまでには”死の谷”、”ダーウインの海”と呼ばれる大きい障壁があり、これを耐えて乗り越えることが必要である。しかも事業として真の成功までにはハード製品では着手から5年から10年かかる物も多く、技術力や資金支援だけでなく営業・販売支援も必要になる。

   支援には先に述べた公的な機関の支援制度の他に最近では多くのベンチャーキャピタルが良い支援先(投資先)を探している。日本では多くは銀行、証券会社などの金融系であり、他に事業会社系、商社系、独立系などがあり、米国からの出先機関も多く存在する。ただ、最近は成果を早く求めるベンチャーキャピタルが多くなってきたと聞く。

B 上記の@,A或いはその複合路線、いずれを選択する場合にも従来の企業風土を変革できる経営トップの“明快な経営理念と経営戦略”が必要であり、それを全員に周知徹底することが必要であろう。

 舵を取る人、櫓を漕ぐ人が同じ方向を向いて進むことが大事です。